「桜色の風が咲く」9歳で失明、18歳で聴力を失いながらも世界ではじめて盲ろう者の大学教授となった福島智教授の生い立ち

人生は困難の連続とはいいますが、これほどまでの困難を与えられた人はいるでしょうか?

この映画は実話をもとに作られた映画です。幼くして目と耳が不自由となった福島智さん。その困難を乗り越えて現在は東京大学で教授をされています。そんな福島教授の半生を描いた物語です。

福島さんの身に起きた試練の数々には胸をうつものがありますが、その家族も同様です。代わってやることもできず無力感にさいなまされる家族の心理描写は、深く心に突き刺さるものがありました。

余談ですが、この映画を観に行ったとき映画館のトラブルで上映が遅れてしまいました。当初は怒っている人もいたのですが、本作を観たらそのようなことは小事に思えてしまったのでしょう。退館するときは誰ひとりクレームをつけることなく去っていきました。

映画「桜色の風が咲く」公式サイト
https://gaga.ne.jp/sakurairo/

「福島智教授の研究室ホームページ」東京大学先端科学技術研究センター
http://bfr.jp/

Contents

見どころ

強さと弱さ

福島教授は「特別に強い精神力」があったから乗り越えられたのだろう。そう思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに幼い頃から大人に近い達観した感性を持ち合わせていたような描写があります。

しかし、片目ずつ光が失われていくことに不安を思える福島少年。全盲となっても懸命に生きようとします。小学生にして目が見えなくなることに備え、自ら点字を学びます。そして光が失われた世界でも音を頼りに充実した学生生活を送っていました。

そんな中、次第に音すらも奪われていきます。福島少年は光と音を失った世界を「宇宙空間に放り出されたよう」と語ります。常人では想像もつかない世界でしょう。そして、社会との接点が失われないようにありとあらゆる治療を試み始めます。

西洋医学、東洋医学、運動に食事制限。できることを全てやっても聴力は日々失われていきます。ついに自身の人生に絶望し、家族の愛情すら「鬱陶しい!」と言い放つようになってしまいます。

ここで言いたいのは福島教授も完璧な人間ではないということです。心が折れ嘆き悲しみ、時には身近な人に当たってしまう。そして、そんな家族に支えられ再生していく。その描写に「人は欠けたものを誰かに補ってもらいながら生きていく」ということを教えられます。

家族愛

視点を変えて家族のお話をします。

「障がいを持つ人の家族」は本人と同じくらい苦しみを共有しているのだと感じます。

何もしてやれないという無力感。事実を受け入れたくないという心。いつかは回復するのではないかという微かな期待。

障がい者本人から言われて最も傷つく言葉は「俺の気持ちなど誰もわからない」ではないでしょうか?決してわかることのない本人の心。しかし、家族はできるだけそれに寄り添おうとしています。その行為を根からへし折られる言葉がこれだと感じます。

そんな母親の心の叫びとも言える苦しみを演じるのは小雪さん。私も両親の介護をしているので、障がいを持つ人に寄り添う気持ちは少しは理解できます。そんな家族の思いを見事に演じきっていました。

吉沢悠さんが演じる父親にも目が離せません。教職をしている父親は、子供のことは母親に任せっきりという描写があります。福島少年の目の手術にも駆けつけず、その言動に母親は怒りと困惑を隠せずにいます。しかし父親は自分が仕事を失っては家そのものが倒れてしまうと考えていたのです。

まさに昭和のお父さん。父親が一家を支え、母親が子供たちを守る。福島家はそんな家族です。一見、合理的で飄々とした父親のようですが、誰よりも家族愛が深く子供の可能性を信じていました。

節目節目に息子たちにかける父の言葉は、シンプルでありながらも重みがあります。

演技力

わたしはあまり「演技力」というのがわかっていません。何を持ってして演技がうまいかの判断ができません。人から「あの人、演技下手だよね」と言われてもピンときません。

しかし、あえて俳優たちの演技が素晴らしかったと言わせてください。

このような実話に基づく映画は「わざとらしさ」が一気に興醒めさせてしまうと思っています。「感動作ですよ」「さあ、泣いてください」という制作者や俳優さんの意図が見えた瞬間冷めてしまうのです。

この映画の俳優陣はそれを一切感じさせません。まるで我が身に起きているかのように映画の世界に引き込まれてしまいました。

まとめ

人生は諦めずに生きていれば夢は叶う

そんな言葉でまとめようとは思いません。なぜなら人生とは、そう思いながら生きても、抜き差しならぬ事態に放り込まれると思っているからです。現実は努力を裏切ることがあるのです。

そんな上っ面だけの前向きなメッセージは、人を傷つけることすらあると理解しています。

しかし、あえてこの映画からの学びを言うならば、

諦めずに生きれば夢は叶うかもしれない、ひょっとしたら叶わないかもしれない
しかし、諦めて夢が叶うことは決してない

家族にできること。それは直接的な支援だけでなく、その人の可能性を信じ勇気づけることなのかもしれません。

そして諦めたくなるほど人生に絶望したときこそ、「誰かに頼る」という選択肢が必要に思えます。(その前段階から誰かに頼ることも大切です)

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