特別養護老人ホーム(特養)とは?
1番入居申込数が多く、すぐに入れないことが多いのがこの特別養護老人ホーム(特養)です。
「老人ホームは入居待ちが多く、なかなか入れない」そのイメージはこの「特養」から来ていると思います。実際にはさまざまな介護施設があり、予算や状況に応じていろんな選択肢があります。全ての人が入居待ちになる訳ではありません。
今回はこの1番人気の「特養」とは、「どんな施設でなぜ人気なのか?」「入居条件や入居までの流れ」「入居待ちになったらどうすれば良いか」を中心にお話しします。今回は実体験に基づいた具体例が多くなります。長文ご容赦ください。
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どのような施設なのか?
特養はどんな施設かというと、「常時介護が必要な方で、在宅の生活が困難な高齢者に生活全般の介護を行う施設』です。そのためそれほど介護が必要でない方が、将来を見据えて入れる施設ではありません。また、在宅での介護を十分に受けられる方も、上記の理由から入居しにくくなっています。
特養は公的施設で、医療法人や社会福祉法人などの大きな病院が運営していることが多いです。「医療法人○○会 特別養護老人ホーム△△園」といった名称を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?そのため入居中に医療措置が必要になった場合は、関連病院で適切な処置を受けることができます。
ではどの辺が公的施設らしいかというと「収入に応じて減額制度がある」「自己負担額が一定に定められている」ところです。
▲「(3分でわかる)特別養護老人ホームの基本知識」ゆるっとかいごさん公式YouTube
https://youtu.be/BEKeynOyrCI
▲「介護サービス利用者の負担割合について」福岡県久留米市HP
https://www.city.kurume.fukuoka.jp/1070kenkou/2030koureikaigo/3060kaigoservice/03_08_01.html
※色々と難しく書いていますが、収入によって施設利用料が安くなったり、自己負担額が高額になったときに、一定額を超えた分が後から返ってくる制度があります。
なぜ人気なのか?
1番に挙げられる理由は「コスト面」だと思います。比較的低コストなので、入居者本人の年金などの収入の中から、費用を捻出することが可能です。また入居期間に定めがなく、看取りまでしている施設もあります。正式に入居が決定したら、安心して継続的に介護が受けられる終の住処として利用することができます。そのため申込者が多いのです。
少し話がそれますが、介護の費用負担は『原則、本人のお金から』だとわたしは考えています。ここは様々な価値観があるので明確な正解はありません。しかし、あえてわたしがそう明言するには、実体験に基づく理由があります。
親の介護が発生しやすい世代は「働き盛り世代」が多いです。人によっては子供の教育費にしっかりお金を貯めている、もしくはかかっている期間です。また結婚されている方でご両親が健在なら、最大で4人の介護が発生する可能性があります。介護が発生するたびに費用を負担していては、介護者の家計が破綻してしまいます。自分達の家計をやりくりしつつ、介護者自身も老後難民とならないようにお金を準備しておかねばなりません。「親の介護をしたからお金がない」→「だから自分の介護は子に負担してもらう」。このサイクルに陥らないためにも、『介護費用は本人負担が原則』だと考えます。
また、子が介護費用を負担するデメリットがもう1つあります。それは兄弟間の負担割合の差です。介護が発生すると、「長男」「同居している子」に負担が集中しやすいです。介護発生直後は良いのですが、何年も長期的に一極集中の負担を強いられると、いかに兄弟とはいえ関係に歪みが生じてしまいやすくなります。それが後々の相続争いの種となってしまう恐れがあるのです。
わたしは一人っ子なので、兄弟間の遺恨に発展することはありません。しかし、なかなか所得が上がらず、私たち世代の年金制度に期待できない現状では、自分達で老後資金もしっかり確保しなくてはいけません。そこを無視し、日々の生活を極限まで切り詰めれば、親の介護費用は負担できます。わたしにはそれが正しい選択には思えませんでした。きっとどこかで後悔し、親の犠牲になったと悔やむ自分が想像できたのです。なので、よほどの「精神的余裕」「経済的余裕」「時間的余裕」がない限り、介護費用を受け持つことはおすすめしません。
入居条件
要介護3以上です。
この「要介護3」とはどのような状態かと言うと、「1人では自分の生活行動ができない」と考えてください。食事、着替え、入浴、排泄など誰かのサポートが必要な状態です。
わたしの母は脳梗塞で倒れ左半身に麻痺が残りました。そのときの状態は「排泄は自分でできる」「食事は用意すれば自分で食べれる」「お風呂はヘルパーさんに入れてもらう」「1人で外出はできない」「外の移動は車椅子」でした。この状態で「要介護2」です。
実はこの「要介護2」の状態。あまり1人では生活作業が完結できません。食事の用意、洗濯、入浴の補助、着替えの用意など、同居する介護者は負担が大きいと思います。この要介護2の状態にならないように介護される方は「できるだけ動き」「人と話し」「考える」ことが大切に思います。
少しそれますが、わたしの母の例です。母は入院中はリハビリを頑張っており、当時64歳という若さもあり自力歩行も可能と言われていました。しかし退院して在宅介護になってから、状態がどんどん悪化していきます。身の回りのことを、全て父にお願いするようになってしまったのです。手の届く場所にある本やリモコンを取るにも人に頼む。介護ベッドの横にテレビを設置してもらい、そこから動かなくなりました。さらにはナースコールのようなブザーを付け、些細なことも人に頼むようになってしまったのです。
一見すると、優しく介護しているようにも見えます。しかしこれが大きな間違いでした。母は食事、入浴、排泄以外はずっとベッドで横になっている生活を送っていました。みるみると筋力は弱まり、本当に何も出来なくなっていったのです。そして「何も出来ない」→「何もしたくない」という負のスパイラルに落ちていきました。
こうなると夫婦関係もおかしくなってきます。お互いを支え合う関係ではなく「介護サービスを受ける人」と「奉仕する人」の関係になっていきました。今思えば父がギャンブルやお酒にのめり込んでいった背景に「在宅介護のストレス」があったのかもしれません。
入居までの流れ
入居には大きく2パターンあると思います。1つは親の体調が変化し入院。そこから介護施設へ行くパターン。もう1つは在宅介護から施設介護に切り替えるパターンです。
どちらにせよ、担当のケアマネージャーさんに相談しましょう。親の介護度や家の状況に合わせた介護施設を紹介してくれます。わたしは経済的な理由と、遠方に住んでおり家族もいるため「特養」入居を希望しました。すると近隣の施設一覧と現在の空き状況を調べて教えてくれました。
ここでポイントになってくるのが「ケアマネさんとの付き合い方」です。良くない例を先に挙げます。それは「うちのケアマネは何もしてくれないと悪態をつく」です。まさに両親が担当ケアマネさんにとった行動です。確かにケアマネさんによって、してくれることの量と質に差はあると思います。介護制度も刻々と変化し、知識が更新されてない方もいるかもしれません。それでもケアマネさんを味方につけるとつけないでは、介護負担に雲泥の差が出ます。ただ人と人とのことなので相性はあります。親やご自身との相性があまりに悪いと感じたら、きちんとした手順と礼節を踏まえた上で、地域包括支援センターや行政の福祉関係部署に相談し変えてもらう事も1つの手です。
話がそれたのでまとめると、申し込み手順は以下の通りです。
①担当ケアマネージャーに相談
②適切な施設を紹介してもらったら見学・申し込みに行く
※ケアマネさんが申込までしてくれたらラッキーと思おう。逆を言えば全てをケアマネさんに頼らない。
※コロナ禍なので申し込みは事前予約した方が良いです。保健施設はかなりコロナに敏感です。
どのようにして入居が決まるか
特養の「入所判定会議」で決定されます。この判定の内容は申込者の介護度だけでなく、家族の状況。どのようは状況で在宅介護が困難なのか?など様々なチェック項目があり点数化されていきます。その点数に応じて入居の優先度が決まります。早く申し込んだから早く入れるという訳ではないのです。
さらにこの「入所判定会議」の開催時期は施設によって異なります。多くの施設は年2回。稀に毎月開催されている施設もあります。その会議のタイミングまでは入居待ちとなってしまいます。
入居待ちの人数を聞くと、100人〜200人のケースもあり気が遠くなってしまうこともあります。一度なぜそうなっているか施設の人に聞いてみたことがあります。答えは「入居の必要性はないけど一応申し込んどくか」の人も結構いるからだそうです。また、わたしの実家がある農村地域は農業などの自営業者が多いです。そのため厚生年金ではなく、国民年金のみを収入としており年金受給額が少なくなります。結果そのような地域では、比較的コストの安い特養に申し込みが集中するのだそうです。
▲「入所判定基準」北九州市HP
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000747218.pdf
入居待ちとなったら
特養入居の申込は、まず「入居待ち」になると考えた方が良いでしょう。では空くまでの数ヶ月〜数年間を在宅介護しないといけないのか?答えは「ノー』です。必ずしも「入居待ち=在宅介護」になるわけではありません。
誤解がないように補足しておくと、決して在宅介護をするなと言っているわけではありません。誰かが犠牲になることなく、親の住み慣れた環境で介護ができれば、それに越したことはありません。
では、入居待ちになったらどうすれば良いかを具体的に説明します。特養には「ショートステイ」という制度があります。簡単にいうと「正式入居ではないが、実質入居してる」というものです。少し掘り下げて説明すると、ショートステイとは介護認定を受けた方が短期間、施設のサービスを受けられる制度です。しかもこのショートステイは介護度に制限がありません。要介護1でも利用可能です。ただし介護度が軽くなるほど介護保険内で受けられる日数が少なくなっています。
パンフレットなどには「息抜き」「冠婚葬祭などで在宅介護が難しいとき」に利用できますと記載されています。それ以外には「入居待ちの間、ショートステイで施設を利用する」といった使い方があります。これは入居申し込みに行ったときに施設の方から教えていただきました。入居期間に定めがあったり、費用は正式入居よりも少し高くなりますが、親を安全な場所で介護することができます。ただしこのショートステイ狙いの方も多いので、ショートステイ待機となる可能性もあります。正式入居で待機が出ている方は、是非このショートステイも視野に入れてみてください。
▲「(3分でわかる)ショートステイとは」ゆるっとかいごさん公式YouTube
最後に
わたしがどれくらいの数の施設に入居申し込みに行ったかをお話しします。ケアマネさんやソーシャルワーカーの方からは「最低でも5〜6施設は申し込んでください」と言われました。わたしはショートステイでも良いので、何とか特養入居につながる道を探さなくてはなりませんでした。待機期間は平均3ヶ月から半年と聞いていたので、5〜6施設では不十分と考えました。申込数は約30施設。これはかなり極端だったとは思います。母の退院前1ヶ月は集中して朝から夕方まで申し込みに行きました。隣の県など自分が行ける範囲内は全て申し込みました。その甲斐あってか、入院中に特養の入居が決まるという、異例のスピードで受け入れ先が決まったのです。
とある福祉関係の方がわたしに言ってくれた言葉が、今の大きな判断材料になっています。
「介護はどこまでできるか?ではなくどこまでやるか?」
「親を施設に入れるタイミングは、あなたが入れたいと思ったタイミング」
介護で1番避けたいのは『共倒れ』です。親自身も自分の介護のために子の人生を壊してしまうことは望んでいないはずです。また、介護をしていると周囲から色々と言われることがあります。ですが「介護しているあなた自身が、介護をしながらも幸せに生きて良い」ということを忘れないでください。