カンヌ国際映画祭受賞作品「PLAN 75」のあらすじと見どころを解説

介護に関わる者として押さえておきたかったこの映画「PLAN 75」。

6月上映の映画が9月に入ってもまだ上映されているところをみると、その人気の高さがうかがえます。

このタイトルが意味するものは、75歳を過ぎたら自らその生死を選択できるという制度。そんな制度が施行された今より更に超高齢化社会の日本を舞台に描いた作品です。

本作は日本・フランス・フィリピン・カタールの合作です。

そしてカンヌ国際映画祭の新人監督に贈られる、カメラドール特別賞を受賞しています。

実際に観てきましたので、早速こちらの作品をご紹介していきましょう。

PLAN 75 公式ホームページ
https://happinet-phantom.com/plan75/

Contents

あらすじ

舞台は超高齢化社会の日本。高齢者を支えるあまり、若年層の負担がとてつもなく大きくなっている社会です。

そしてそんな世の中を憂い、若者が自殺をするシーンから始まります。

そしてニュースから流れる「PLAN 75」の案内。

主人公のミチ(倍賞千恵子さん)はホテルの客室清掃員として働いています。

そんなミチは職場から退職を勧告されてしまいます。かたち上は円満退社。実際は明らかに人員整理でした。

収入をなくしたことで住居を失いそうになります。収入を得るために深夜のガードマンとして老体に鞭を打ちながら働いてみたり。そんな中、友人の孤独死と立ち会ってしまいます。

ミチは生きていることに意味を見出せなくなっていました。

そんなとき目にした「PLAN 75」。

さまざまな葛藤を抱えながら申し込みすべきか考えを巡らせます。

そして「PLAN 75」を斡旋する側の行政やコールセンターの人たち。そこにも多くの苦悩がありました。

最終的にどうなるかは伏せますが、「PLAN 75」を巡り「申込者」「制度を運営する側」「そのPLAN 75の現場で働く者」の心の描写に注目してください。

見どころ

現実に起きている高齢者が抱える問題をリアルに描写している

わたしは高齢者である両親が、入院する前にどのような暮らしをしていたか実際に見てきました。それは、いつ孤独死してもおかしくない状況でした。

また、高齢者は一度経済的基盤が崩れてしまうと自力では修復不可能なことを嫌というほど見てきました。

具体的にいうと就労の問題です。定年退職がどんどん伸びているとはいえ、高齢者の就職活動は困難を極めます。

実際にわたしの実家がある田舎の方に行くと、様々な場所で高齢者がアルバイトとして働いています。コンビニ、ファーストフード店。そして複雑なレジ端末をスムーズに扱えなく、お客さんや高校生くらいのアルバイトに叱られながら働いています。

そこのレジでは次々に不慣れな言葉が高齢者を襲います。

「ペイペイで」「交通系で」「メルカリ送りたいんだけど」

実際に使っていない人からしたら呪文のようにしか聞こえないでしょう。

わたしの実家の駅はSuicaのような端末は入っていません。自動改札もなく手渡し切符です。そんな田舎社会でも全国チェーンの店舗は存在します。そこには最新の設備が導入され、高齢者は四苦八苦しながら働いています。

そして、働くにあたり習得に時間がかかり、急な病欠などが発生しやすい高齢者。お店側もなかなか雇用しようとはしません。これほど高齢者の未経験の職場は厳しいのです。

他には住居の問題があります。

年金収入だけになり、今まで支払っていた家賃が払えなくなる人もいます。そして高齢者になるほど医療費はかかってきます。支出は増えていくのです。さらに令和4年10月から病院の自己負担額が倍になります。

ここで問題があります。通常なら「もっと家賃の安い場所へ引っ越そう」となります。しかし高齢者はなかなか家を借りることができません。貸し手は高齢者に貸すリスクを嫌うのです。

例えば孤独死を迎えてしまい、発見が遅れ事故物件となってしまう。認知症が発生し住民とトラブルを起こしてしまう。家賃の支払いが滞ってしまう。

高齢者が新たに家を借りることは非常に難しいのです。

そのような現在の高齢者が抱える問題を、この映画を通して学ぶことができます。

合法的に社会的弱者を排除し、世の中の生産性を上げることはできないか?

そんな思惑をきれいな言葉で隠しながら「PLAN 75」は着々と深耕していくのです。

感想

率直にいうとかなり好みが分かれる映画だと思います。

それはこの映画が持つメッセージ性の重さではありません。

表現の仕方です。

ハリウッド映画や邦画に慣れている方は、かなりまどろっこしい映画に感じると思います。

上記の映画の特徴は「メリハリ」と「分かりやすさ」です。起承転結がクッキリと描かれており、主人公の心情が非常に分かりやすく描かれます。そして効果的なBGMで映画を大いに盛り上げてくれます。

それに対してこのPLAN75はメリハリというものがほぼ存在しません。よくいえば終始、映像美と演技を堪能できる映画です。悪くいえばのペーっとした映画です。

ここは共同制作元のフランス映画の影響が強く反映されているように思えます。

また、監督自身もあえて「分かりやすく作っていない」と語ります。

賠償さんをはじめとする俳優陣の目の動き、ちょっとした表情の変化で様々なことを表現しています。

監督の意図としては、観た人それぞれに感じ方があって良いというものでした。そのために十二分ほどの余白を入れ、決して正解を出さない作りにしているのです。

しかし決して駄作ではありません。

制作背景として、監督は「社会的に弱者を叩く風潮がある」と語ります。「社会的に役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方が社会に蔓延してきている」とも語ります。

そんな不寛容な社会に危機感を感じ本作を作ったのだそうです。

わたし自身も社会的弱者が「もっと頑張りなさい」「苦しいのは皆同じよ!」と正義をかざされ叩かれる様を見てきました。社会的弱者=頑張っていない人というレッテルが貼られてしまうのです。

ニュースを見れば、誰かを裁かずにはいられないようなショーアップされた報道が多く目に止まります。

この映画は「何かを考えるきっかけになる」という点では必見の価値がある映画だと思います。

「感動物で泣きたい!」という気持ちで観ると、後味の悪さだけが残るのでご注意ください。

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